今回の記事では「山で起こっている問題」について取り上げます。
登山はとても魅力的ですが、その一方で登山のフィールドである山では色々な問題が起こっているという現実があります。
そして、その問題には僕たち登山者が深く関わっているものも。
ちょっと真面目な話になりますが「登山をするときの山の見方を少し変える」キッカケとして読んでもらえると嬉しいです。
山で起こっている問題7つ
問題①:山岳事故
問題の1つ目は「山岳事故」です。
山岳事故には、
- 道迷い
- 滑落
- 転倒
- 病気
などいくつかの種類があります。
ちなみに、警察庁によると令和3年(2021年)の山岳事故の発生件数は2,635件。
せっかく楽しむために山に行ったのに、事故を起こしてしまうのは悲しいですよね…。
事故を起こさず “もしも” のときに適切に対処できるよう、
- 自分の体力やレベルにあった登山を計画をする
- 体調管理を万全に
- 登山中は地図で現在地をちゃんと確認する
- 登山届を提出し、登山計画を家族や知人に知らせておく
といったことが大切です。
また、知っている人も多いとは思いますが山岳事故の際に、スムーズな救助につながる「ココヘリ」といったサービスがあります
事故防止のための講座も行っているので、興味があればぜひホームページを見てみてください。
問題②:登山道の荒廃
「登山道の荒廃」も山で起きている問題の一つです。
みなさんは、山でこんな光景を見たことがありますか?
一見すると、
これなにか問題あるの?
と思われるかもしれませんが、これぞまさしく登山道が荒廃している状況。
道が崩れ深くえぐれて周囲の植物も減ってしまっています…。
よくある登山道荒廃のパターンは、
- 自然現象(雨や雪)、人の影響で道が崩れて歩きづらくなる
- 崩れた道を避けて登山者が歩くようになる
- 歩いた場所の植物がなくなり、そこもまた崩れていく
- 登山道の荒廃が広がっていく
というもの。
こんなことが日本中の登山道で起こっています。
登山道の荒廃は台風による大雨など自然現象の影響もありますが、人が歩くことによって起こっている例も多数あります。
登山道の荒廃について詳しく知りたい人は、ぜひ「山守隊」のホームページを見てみてください。
北海道の大雪山で山の整備をしている団体で、代表の岡崎氏は日本各地を回って登山道整備のあり方を伝えています。
岡崎氏にお会いしてお話を聞いたことがあるのですが、とても真摯で熱い想いを持つ方でした。
一般の人が参加できるイベントを開催し募集していることもあります。
問題③:オーバーユース
オーバーユースとは「過剰利用」の意味で、
をいいます。
先程の “登山道の荒廃” もそうですが、 “トイレやゴミの問題” などもオーバーユースと密接に関わっています。
天気:晴 気温:11.0℃ 富士山展望:〇
— 高尾ビジターセンター【公式】 (@takaovc) November 19, 2022
朝7:50時点でケーブルカーがこの長蛇の列!
紅葉のピークと共に、混雑のピークもやってきました…
混雑期は、迷子も多く発生します。「あとで合流」がとても難しいので、十分ご注意ください~!#高尾山 #紅葉 pic.twitter.com/z4yA1p2j7H
身近な山だと年間250万人の人が訪れると言われている高尾山なんかは、オーバーユースな状況だな感じます…。
人が自然に入るからには影響をゼロにすることはできません。
でも、僕たち登山者としては、自然へのインパクトを最小限にできるよう気をつけていきたいですね…。
オーバーユース対策のために、マイカー規制や入山料の徴収といった取り組みを行っている山域もあります。
尾瀬のマイカー規制なんかは有名です。
問題④:トイレ問題
“し尿処理” や “し尿による環境への悪影響” といった「トイレ問題」も山で起こっている問題の一つ。
人が活動すれば、出るものが出てしまうのは仕方ありません。
ただ、“山” という特殊な環境で「し尿を適切に処理する」ことは、環境的にも経済的にも大きな負担です。
山のトイレによっては、協力金(チップ)という形で登山者から「し尿を処理するための費用の負担」をお願いしているところもあります。
ども!姐さんです(^^)#富士山 #吉田口ルート 開山❗️🗻静岡側の #富士宮ルート #御殿場ルート #須走ルート は7/10開通予定❗️口を湿らす程度の水分補給をこまめに行い小水として出すを繰り返すことで脳への血液循環が良くなり高山病を予防できます💧小屋のトイレチップは200円です🚻100円玉をお忘れなく😉 pic.twitter.com/40aIKyyuuc
— 石井スポーツ 太田店 (@Ishii_Oota) July 2, 2022
排泄は生理現象なので仕方ないですが登山者としては、
- 登山前になるべくトイレは済ませる
- 携帯トイレを持ち歩く
- 協力金は気持ちよく払う
などを心がけていきたいところです。
問題⑤:ゴミのポイ捨て・不法投棄
「ゴミのポイ捨て・不法投棄」も山で起こっている問題のひとつ。
たとえ小さなゴミだったとしても、持ち込んで残したゴミは山の環境に悪影響を与えてしまう恐れがあります。
は守るべき山の基本マナーです。
富士宮口八合目付近にてゴミ拾いしながら下山している富士宮西高校・ワンダーフォーゲル部の皆さん。
— 富士宮口ガイド組合 (@mt223guide) August 7, 2022
「自分のゴミは自分で持ち帰る」はもちろんですが、彼らのような意識の登山者が増えるといいですね。
綺麗な富士山にするにはみんなの意識から🗻
※投稿許可をいただいております#富士山 #mtfuji pic.twitter.com/W34uQjFaNm
とはいえ、「山でゴミを出さないようにしよう」という意識は、年々高まっているんじゃないかな?と個人的には思います。
昔からゴミ拾いの活動を山でしている団体の人なんかに聞いていると、
という話をよく聞きます。
どちらかというと、ワザとではなくうっかりポケットやザックから落ちたようなゴミが多いのだとか。
(コロナ禍になってからはマスクのゴミは増えた気がします…)
全部登山道で拾った飴の包み紙のゴミです。
— 富士登山オフィシャルサイト (@fujisanclimb) August 15, 2016
#富士山 #ゴミ #清掃活動 pic.twitter.com/dTkGOZy87P
自分自身もですが、ゴミをうっかり落とさないよう気をつけていきたいですね。
問題⑥:動物や植物の採取
ゴゼンタチバナ"Cornus canadense"ビフォーアフターです。今年は結実してません。そもそもで葉っぱが4枚の子は花を付けません。果実は食用になるって話もありますが、南アルプスや八ヶ岳あたりはそれぞれ国立公園や国定公園の自然公園指定植物になっていて原則採取は禁止です。見て楽しみましょうね。 pic.twitter.com/v44o1NEbNh
— こチェ (@cocheguevara) September 2, 2021
「動物や植物の採取」も山で起こっている問題です。
植物の採取と聞くと、
というような話が思い浮かぶかもしれませんが、高尾山のような身近な山でも、
なんて話を聞きます…。
高尾山にも全部で18項目の利用ルールがあります。https://t.co/SkoNfaFgUl
— 高尾ビジターセンター【公式】 (@takaovc) July 21, 2022
最近は山内で植物の盗掘が発生しており、高尾ビジターセンターにも情報が寄せられています。
綺麗な花を見つけても写真を撮るなどに抑え、自然に影響を与えないように楽しみましょう。#ビジターセンターに聞いてみよう https://t.co/zE9uCUqzg8 pic.twitter.com/Vb5NeGv1Pk
希少な自然を守るためにも、そこにある「動植物を大切に」したいですね。
ちなみに、日本の多くの山域が国立公園に指定されており、自然公園法という法律で動植物の採取が規制されているエリアがあります。
国立公園がどんな場所か知りたい場合は下記のリンク先をどうぞ。
問題⑦:増えているシカ
あまり知られていないかもしれませんが「増えているシカ」は深刻な山の問題の一つです。
シカは1日で3キロぐらいの植物を食べるといわれている超・大食い選手。
そんなシカが増えてしまったことにより、下記のような様々な問題が起こっています。
- 農林業への経済的被害
- 樹皮剥ぎによる森林の衰退
- 希少な高山植物の減少
- 下層植生がなくなることによる土砂崩れなどの危険
登山をしていて「森の中がシカに食べられない植物ばかり」になっている光景を見るとゾッとします…。
なんだか、すごく寂しい感じがするんですよね…。
【都レンジャー情報】奥多摩ではニホンジカの食害により植生への影響が出ているよ(>o<)でも、このマルバダケブキの黄色い花はたくさん咲いているんだ。なぜかって?この花はシカが食べないから増えちゃったのさ!(自然公園担当) pic.twitter.com/dvJ1YAeP5M
— 東京都 環境・自然 (@tochokankyo) August 5, 2014
東京だと奥多摩は深刻な状況です。
ちなみに、シカが増えた要因は一つではなく、
- ハンターの減少によりシカの捕獲数が減った
- 積雪量の減少で冬に死亡する個体が減った
- 放置された農地がシカの格好のエサ場となった
などと色んな要因がからんでいるといわれています。
登山をしていると、シカ対策として設置されたシカ柵みたことがある人も多いかと思います。
なかには登山道上に設置されていて「出入口が開閉できる」ようになっていものも。
当然かもしれませんが、開けたシカ柵の出入口は必ず閉じるようにしてくださいね!
日本のシカの現状については知りたい場合は、下記の本が読みやすくてオススメです。
山の問題を減らすために自分たちにできること
山のマナー・ルールを守る
山で起こる問題のなかには、国や自治体が絡まないと解決できない大きなものもありますが、個人の行動によって問題を減らせるものが多数あります。
そのために、
- 自分のレベルあった登山計画を立てる
- 登山届を提出する
- 登山道をはずれない
- 動植物を採らない
- ゴミは持ち帰る
- 登山前にトイレを済ませる
といった “山の基本マナー・ルール” を守るのが大切なのかなと思います。
山のマナーは、
こちらのような山岳会が出しているものもあれば、
上記の「東京都自然公園利用ルール」のように自治体が特定の山域向けに定めているものもあります。
内容は似たものが多いですが、なかにはアルプスの「ライチョウ観察ルールハンドブック」のように、その地域独特のマナーやルールがあるところも。
ぜひ山に登る前に調べて目を通してみてください!
マナーやルールって堅苦しいイメージがあるかもしれませんが、その地域の特性が盛り込まれているので知ると面白いです。
活動に参加する
もう一歩 “山の問題” に踏み込みたい人は「山で起こっている問題を解決するための活動に参加する」という手段もあります。
活動の形態は、
- ボランティア団体に会員として所属して活動する
- 登山道整備などのイベントに参加者として活動する
など様々。
興味があれば「登山 ボランティア」といったワードでぜひ検索してみてください。
参考になりそうなリンクをいくつか貼っておきますね。
東京都サポートレンジャー
【自然公園情報】東京都レンジャーとサポートレンジャーは御岳山にて木橋整備の共同活動を行いました。写真のように積もった土砂を取り除くことで、利用者は橋を安全に歩くことができます。訪れた際は、大切に利用してください!(自然公園担当) pic.twitter.com/5CCFLOP1wY
— 東京都 環境・自然 (@tochokankyo) June 5, 2017
東京の奥多摩と高尾の山域で活動するボランティアです。
募集は1年に1度ぐらいのペースで行わていて、ボランティアに登録するためには講座を受講する必要があります。
最新の情報は下記のリンク先からどうぞ。
丹沢大山ボランティアネットワーク
丹沢大山周辺で活動するボランティアの情報が掲載されています。
- 団体名
- 活動地域
- 活動項目(例:美化活動、植樹、調査、普及啓発)
といった内容が一覧になっているので、自分の希望にあったボランティアを探すのに便利。
気になる団体があれば、個別に問い合わせをしてみてください。
大雪山 山守隊
「問題②:登山道の荒廃」でご紹介した “大雪山 山守隊” でも一般登山者が参加できるイベントを募集しています。
イベント情報の告知はFacebookで行われているので、気になる人はチェックしてみてください。
雲ノ平登山道整備ボランティアプログラム
雲ノ平で行われているボランティアプログラムの案内ページです。
「山小屋とボランティアの協働による新しい登山道管理の形を提案する」というコンセプトで始められた活動で、個人的にもとても興味深いなぁと思います。
まとめ
今回の記事では「山で起こっている問題」について紹介しました。
僕自身、山の整備や安全対策に関わっているので
“山の問題にどう対処していけばいいのか?”
というのはいつも悩みどころです…。
問題の解決が難しいものも多々ありますが、この記事をキッカケに「山にはこんな側面もあるのか」と知って考えてもらう機会になれば嬉しいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました!